はじめに
相続対策の一環として、もっともなじみのある生前贈与による相続対策をされている方も多いのではないでしょうか?
生前贈与の方法には暦年贈与と相続時精算課税による贈与の2種類あります。
本記事ではいわゆる110万円までは贈与税がかからない暦年贈与ではなく、相続時精算課税制度を適用すべきパターンをご紹介します。
相続時精算課税制度の特徴
・適用対象者:60歳以上の親、祖父母から20歳以上の子、孫への贈与であること。
・非課税枠:2500万円まで非課税。2500万円を超える場合は超えた分に対して20%の贈与税。
・相続時精算課税により贈与した財産は贈与者の相続税の対象となる。その際には贈与時の評価額によって相続税を計算する。
・相続時精算課税により支払った贈与税は、相続税の計算の際に差し引くことができる。相続税から贈与税を差し引いても余りがある場合は還付を受けることができる。
・一度選択をしたら暦年贈与には戻れない。
パターン1 贈与税の還付を受ける場合
相続時精算課税制度で支払った贈与税が相続税より大きい場合は還付を受けることができます。
暦年贈与の場合も3年以内に贈与された財産について贈与税を支払っている場合は相続税から控除することができますが、還付を受けることはできません。
パターン2 値上がりが見込まれている財産を贈与
会社オーナーの場合だと、利益がでている会社は自社株の評価額は年々大きくなっていきます。資産管理会社も同様です。
相続時精算課税制度を適用して贈与を行えば、贈与した時の価額で相続税を計算しますので評価額が低いうちに贈与することで相続税の対策となります。
パターン3 高収益不動産の贈与
相続税対策が必要な方が高収益な不動産を所有しているとその物件から得られる不動産収入によって相続財産が蓄積されていくこととなります。
先に不動産を贈与しておくことで不動産収入による相続財産を次世代へ付け替えることが可能となります。また、受贈者の所得が低ければ毎年の所得税も軽減されることになります。さらに、不動産を次世代へ贈与することにより配偶者の相続(二次相続)の対策にもなります。
パターン4 特定の相続人に必ず相続させたい財産がある
実家や自社株式などの財産について、必ず相続させたい相続人がいる場合は生前に贈与を行うことによって財産を渡したい相続人に確実に渡すことができます。
勿論、贈与した財産のうち特別受益にあたるものは、贈与の時期に関わらず、将来の具体的相続分の算定にあたって持ち戻しの対象となります。また、相続開始直前10年以内の特別受益は、遺留分算定上も持ち戻しの対象です。ただし、贈与の事実は民法上で確定しており、その贈与の事実が取り消されることはありません。相続税の対策にはならないケースでも確実に渡すという意味では相続時精算課税制度を適用して生前に贈与を行うことも考慮すべきです。
相続時精算課税制度を適用する際の注意点
注意点1 小規模宅地等の特例が適用できない
自宅や収益物件など敷地については評価額を大きく減額することができる小規模宅地等の特例があります。この小規模宅地等の特例は相続または遺贈により取得した財産のみに適用されるものになりますので、相続時精算課税制度を適用した財産についてはこの特例が適用できないことになります。
そのまま相続していれば小規模宅地等の特例が適用できたのに生前に贈与してしまったことにより小規模宅地等の特例が適用できないとなると大きな損失に繋がりかねませんので慎重に検討すべきです。
注意点2 財産の値下がりリスク
相続時精算課税制度を適用した場合は、贈与時の評価額がそのまま相続税の評価額になります。
したがって贈与時から相続開始日までの間に不動産や自社株式の値下がりが予想される場合は相続時精算課税制度の適用は控えるべきでしょう。
おわりに
本記事では相続時精算課税制度の特徴を踏まえて適用すべきパターンと適用する際の注意点についてまとめました。
相続時精算課税制度は暦年贈与とは大きく性質が異なるものとなりますので、適用に当たっては慎重に検討するべき制度となります。
しかし、暦年贈与の改正が叫ばれている現在、相続時精算課税制度をうまく活用していかなければならない可能性もあるので改めて相続時精算課税制度について検討していく必要があるでしょう。